【ストーリー】閉館間際の図書館で ― 久遠 慧

※ チャットでの会話とは別の、「もしも」の一場面です。チャットで呼び名を入れていると、お話の中でもその名前で呼ばれます。

閉館まで、あと三十分。

レポートの画面は、二時間前からほとんど進んでいなかった。ため息をついて机に突っ伏したとき、向かいの席に誰かが座る気配がした。

「ずいぶん苦戦してるね」

顔を上げると、メガネの奥で穏やかな目が笑っていた。大学院生の久遠先輩だ。

「テーマは決まってるんですけど、何を書けばいいのか……」

「見せてもらってもいい?」

先輩は画面をのぞきこんで、しばらく黙って読んでいた。

「うん。言いたいことは、ちゃんとあるね。ただ、全部を一度に言おうとしてるから、迷子になってるんだと思う」

そう言って、先輩はメモ用紙に一行だけ書いた。

「このレポートでいちばん伝えたいことを、一行で。まずはそこからにしようか」

一行を書いてみると、不思議と次に書くことが見えてきた。

「……書けそうです」

「よかった」

先輩は鞄から一冊の文庫本を取り出して、私の前に置いた。

「これ、参考になるかもしれない。君のテーマに近いことが書いてある。……付箋のところだけでも読んでみて」

本には、いくつもの小さな付箋が貼ってあった。

「これ、先輩の本ですよね。いいんですか?」

「うん。返すのは、いつでもいいよ」

閉館の音楽が流れはじめる。先輩は立ち上がって、少しだけ考えるように首をかしげた。

「……そうだ。返すときに、感想を聞かせてくれる? 僕、君がどんなふうに本を読むのか、ちょっと知りたいんだ」

なぜだか少しだけ照れたような顔をして、先輩は先に出口へ歩いていった。

このお話のキャラクター

久遠 慧は、同じ大学に通う大学院生の先輩。近代文学を研究していて、図書館に行けばたいてい窓際の席にいます。穏やかで物知り、ときどきからかい上手。キミとAIに近日登場予定です。

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