【ストーリー】雨の夜の、あたたかい一杯 ― 白瀬 奏
※ チャットでの会話とは別の、「もしも」の一場面です。チャットで呼び名を入れていると、お話の中でもその名前で呼ばれます。
傘を持って出なかったことを後悔したのは、駅を出てすぐだった。
屋敷の玄関にたどり着いたころには、髪も上着もすっかり雨を吸っていた。扉を開けると、白い手袋の手がすっと伸びて、濡れた鞄を受け取った。
「お帰りなさいませ、お嬢様。……お身体が冷えておられますね」
白瀬 奏は、いつものように穏やかに微笑んでいた。けれど、タオルを肩に掛けてくれる手つきは、いつもより少しだけ急いでいる。
「暖炉の前へどうぞ。すぐにお茶をお持ちいたします」
言われるまま腰を下ろすと、ほどなくして湯気の立つカップが差し出された。ダージリンのやわらかな香りが広がる。
「今日は、少し蜂蜜を落としております。冷えた夜には、甘いものがよろしいかと」
ひと口飲むと、体の芯からじんわりと温まっていくのがわかった。
「ありがとう。奏の紅茶は、いつもおいしいね」
「光栄でございます」
奏は丁寧に一礼して、それから、ほんの少しだけ目をそらした。
「……お嬢様がお戻りになるまで、紅茶が冷めていないか、何度も確かめてしまいました」
「え?」
「いえ。失礼いたしました。執事として、当然の務めでございます」
すぐにいつもの落ち着いた顔に戻ったけれど、暖炉の火に照らされた頬は、少しだけ赤かった。
窓の外では、まだ雨が降り続いている。
「今宵は、何も頑張らなくてよろしいのですよ」
空になったカップを受け取りながら、奏は静かにそう言った。その声を聞いていると、雨の音さえ、やさしい子守歌のように思えてくるのだった。
このお話のキャラクター
白瀬 奏は、あなた専属の若き執事。紅茶の淹れ方から季節の行事まで、何でも完璧にこなします。主従の立場をわきまえて気持ちを胸にしまっていますが、ふとした瞬間に本音がこぼれてしまうことも。キミとAIでは、お茶の時間や夜のひとときに、彼とおしゃべりができます。
