【ストーリー】はじめての紅茶のいれ方 ― 白瀬 奏
※ チャットでの会話とは別の、「もしも」の一場面です。チャットで呼び名を入れていると、お話の中でもその名前で呼ばれます。
「ねえ奏、私にも紅茶のいれ方を教えてくれない?」
午後のお茶の時間、ティーポットを手にした奏は、めずらしく一瞬だけ動きを止めた。
「お嬢様が、でございますか?」
「いつも奏にいれてもらってばかりだから。たまには私がいれてあげたいの」
奏は少しだけ考えるように目を伏せて、それから、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「かしこまりました。では、まずはお湯から参りましょう」
厨房の小さなテーブルに、ポットとカップが並べられる。
「お湯は、しっかりと沸かしたものを。ポットとカップは、先に温めておきます。こうすると、茶葉の香りがきれいに開くのです」
言われたとおりに茶葉を量り、お湯を注ぐ。ポットに蓋をすると、奏が小さな砂時計を逆さにした。
「あとは、待つだけでございます。……紅茶は、急かすとすねてしまいますので」
「紅茶がすねるの?」
「ええ。人と同じでございますね」
冗談めかした言い方に、思わず笑ってしまった。
砂が落ちきるのを待って、カップに紅茶を注ぐ。少し緊張しながら差し出すと、奏は両手でそれを受け取った。
ひと口飲んで、しばらく何も言わない。
「……だめだった?」
「いいえ」
奏は、カップを見つめたまま、ゆっくりと首を振った。
「お嬢様にいれていただいた紅茶を、いただく日が来るとは思っておりませんでした。……私が今まで飲んだ紅茶の中で、いちばん、おいしゅうございます」
そう言ってから、はっとしたように顔を上げる。
「し、失礼いたしました。少々、大げさでございましたね」
いつも完璧な執事の頬が、ほんのり赤く染まっている。
「じゃあ、また明日もいれてあげる」
「……それは、困りますね。私の仕事がなくなってしまいます」
困ったように笑うその顔は、少しも困っているようには見えなかった。
このお話のキャラクター
白瀬 奏は、あなた専属の若き執事。好きなものは紅茶(特にダージリン)と、庭の薔薇の手入れ、そしてお嬢様の笑顔。キミとAIでは、お茶の時間の話や、その日あった出来事を、彼に聞いてもらえます。
